チベットの伝統では、インド仏教の思想哲学を説一切有部・経量部・唯識派・中観派の四学派に分けて整理しています。その中でも唯識派と中観派の思想は、大乗仏教の哲学的な裏づけとして、様々な角度から研究が重ねられてきました。本コースでは、チベット仏教の伝統的な解釈に近代的な仏教学の成果を加味しつつ、インド大乗仏教の二大潮流について考察を進めます。
まず唯識派に関しては、ヴァスバンドゥ(世親)の『唯識三十頌』などをもとに、阿頼耶識、三性、瑜伽行といった側面から思想の特色や意義、そして限界について検討を加えます。また、唯識派が仏教論理学の発展に寄与した点についても、言及する予定です。
次に中観派に関しては、ナーガールジュナ(龍樹)の『根本中論頌』やチャンドラキールティ(月称)の『入中論』などをもとに、空性と縁起、勝義諦と世俗諦、中道といったキーポイントを押さえ、チベット仏教で同派の見解が最高のものとされるゆえんを明らかにします。また中観派の分類にも言及し、自立論証派と帰謬論証派の相異点などを検証しつつ、仏教哲学の心髄に迫ります。
こうした点について知識を深めることは、瞑想修行の裏づけとしても欠かせません。仏教を実践する過程で、少しづつ哲学にも慣れ親しみ、学習を積み重ねてゆく心がけが大切です。