ナムギェル寺前僧院長
デンマ・ロチュー・トゥルク
このたび、日本でもチベット仏教の本格的な団体を設立できる運びになったとの報に接し、まことに慶ばしい限りです。心よりお祝い申し上げます。この「チベット仏教普及協会」が目指すべき理想は、広く一切衆生の幸福であり、その具体的な活動は、チベットの仏教や文化を正しく伝えることです。こうした目的が障礙なく成就するよう、私も遠く離れたインドのダラムサラで祈願しております。
そもそも日本は、仏教の教理と実践の立派な伝統が脈々と生きている国です。そのうえさらに、チベット独自の特色ある仏法が弘通するならば、まさしく完全無欠な状態となることは間違いありません。この点をよく御理解いただくため、以下四項目に整理して、チベット仏教の特色を簡単に御説明申し上げましょう。
- チベット仏教では、戒律の基本から密教の奥義(『秘密集会』をはじめとする無上瑜伽タントラ)に至るまで、仏陀の教えとその解釈の流れを完全に継承し、それらに基づいて実地の修行を行なっています。
- チベット仏教では、『般若経』の教えの中に仏陀の究極的な真意が込められていると考えます。従って、その主題となる中観哲学−空性と縁起の思想−については、特に正しい見解を確立して修行を実践するように努めています。この分野での方法論は、チベット仏教の発展とともに蓄積されてきたので、実に広範かつ豊富なものがあるはずです。
- チベットの昔の偉大な聖者たちは、仏陀の教えやその解釈を厳格に守りつつも、自らの実践経験に基づいて、平易で簡潔な修道体系を編みだしました。その代表的な例が、「道次第」や「修心」です。こうした修道体系を通じて、私たちは、止と観を併修する瞑想などを正しく実践できるのです。
- 顕教と密教を一体化して修行するという立場を貫きつつ、最奥義の無上瑜伽タントラを実践するというやり方も、現在では世界中でチベット仏教だけにしか見いだせない優れた特色です。
以上のように数多くの特筆すべき長所があるので、日本の皆様に是非こうした点に着目し、チベット仏教に対する御関心を深めていただきたいと思います。そのうえで、実際に教えを聴聞し、その内容をよく考え、瞑想を重ねるという、そうした努力を続けることができたら−自らのためにも他者のためにも、一時的にも永続的にも、今生にも来世にも−多大な恩恵と善い結果がもたらされることは間違いないでしょう。