日本の密教のお寺では、お正月や御縁日といった機会にお護摩をたくなどして、日常生活の様々な願い事の成就を祈願しています。チベット密教でも、これと同時に、今生での幸福を祈るための祈祷法が多岐にわたり存在し、必要に応じて実習されています。
もちろん、仏教の究極的な目標は解脱や覚りですから、現世利益ばかりを追及するのは、決して正しい道とは言えません。けれども、今生での生活に問題が多すぎると、仏道修行に打ち込んだり他者のために尽くすといった余裕が生じてきません。それゆえ − 自己の煩悩を膨らませるためではなく − 解脱や覚りを見据えつつ一切衆生の幸福を願い、そうした枠組みの中で現世利益を願うのであれば、これは仏教の正しい実践となるはずです。
本講演では、チベット密教の伝統に基づき、祈祷修法の理論、本尊や護法尊の種類、各種行法の実際、チベット人社会での慣習などについて、できるだけ分かりやすく説明します。