ヴァスバンドゥ(世親)の『阿毘達磨倶舎論』は、説一切有部や経量部の説をもとに仏教の基礎学を
まとめた大論書で、チベット仏教でも日本仏教でも重視されています。例えば、チベットの僧院教育で
最初に学ぶ「ドゥータ」という入門課程も、この『倶舎論』などを一つの拠りどころにしています。
それゆえ、『倶舎論』をよく学ぶならば、チベットと日本双方の仏教に共通する論議の土台について、
理解を深めることができるのです。
本講義では、『倶舎論』の全体像を概観したうえで、仏教の世界観(器世間と有情)、煩悩と業などの
テーマに焦点を絞り、できるだけ平易に説明したいと思います。
もとより、日本でも「唯識三年、倶舎八年」というし、チベットの僧院教育でも『倶舎論』を徹底的に
学習しなおすのは最上級課程に至ってからです。本講義を一つのきっかけとして、これから気長に
『倶舎論』に取り組んでゆけば、仏教の理解と実践をより豊かなものにできるでしょう。